2017年10月5日

水中書店も加盟している東京都古書籍商業協同組合が主催する「古書の日スタンプラリー」が昨日からはじまりました。都内の73店に特製のスタンプが設置され、これを台紙に集めていくと、スタンプの数によりけりの景品がもらえる、という催しです。いつもたくさんの古本屋をまわっていらっしゃる方、行ったことがない古本屋に行くためのきっかけが欲しかった方、スタンプラリーが大好きな方、ぜひご参加ください。期間は来月5日まで。台紙はスタンプラリーに参加しているお店の店頭で配布しています。野崎歓さん、ホンマタカシさん、石神井書林の内堀弘さんのエッセイも掲載。メ~探偵コショタンの顔が目印。


スタンプはそれぞれ一つの文芸作品をモチーフにしていて、弊店に割り当てられたのは上司小剣の「鱧の皮」のスタンプ。恥ずかしながら小剣のことはまったく知らなくて、なんだか地味そうな作品の表題にもがっかり。どうせなら梶井基次郎「檸檬」(八王子・むしくい堂)や横光利一「機械」(学芸大学・流浪堂)や中勘助「銀の匙」(日暮里・信天翁)がよかった、などとぶつくさ。それでも「まずは読んでみよう」と新刊でポプラ社から出ている百年文庫『膳』の巻を購入(この巻に藤沢桓夫「茶人」などとともに収録されている)した。今日市場の行き帰りに読んだのだけれど、これがとても面白くて、スタンプもすっかり気に入ってしまった。


「鱧の皮」は、道頓堀で鰻屋を営む女将のお文のある一日を描いた作品で、彼女のもとに家出した道楽者の夫からの手紙が届くところからはじまる。この夫にすっかり愛想を尽かしている母親や叔父との軽妙な会話では夫のことなど鼻にもかけていないように装いながらも、母親や叔父には気づかれない胸のうちに、お文はまだ夫のことを懐かしがるような気持ちを持っている、そういう様が描かれている。ざわめくお文の感情をなだめるように合間合間に挿入される町の描写がうつくしい。お文が叔父といっしょに千日前の雑踏を歩く後半などを読んでいると、夫婦の人情話は口実で、作者はこの作品で町というものについての考えを深めたかったのだろうか、と思ってしまうほどその町の描写が素晴らしい。


百年文庫の巻末の解説によると、上司小剣は明治7年、奈良県の代々神主の家に生まれた。大阪で学生生活を送り、代用教員を経て上京。読売新聞社に務めながら執筆に向かった。当時の読売新聞社の社会部には徳田秋声、島村抱月がいて、後輩として正宗白鳥がいるなど文芸の薫りが豊かな職場であったらしい。1906年に創刊した雑誌『簡易生活』に主に小説を発表して、1914年に『ホトトギス』に「鱧の皮」が掲載されるとこれが評判になり、作家としての地位を築くに至ったらしい。「田山花袋、近松秋江、加能作次郎らの賞讃」を受けた、とある。京阪を舞台にさまざまな作品を書いたが、読売新聞社を退社後は変わりゆく都市とひとへの関心から四部作になる長編『東京』を書き、晩年は歴史伝記小説に向かった。昭和22年没。


もっと別のことを書こうとしていたのに、すっかりスタンプラリーと上司小剣のことばかりになってしまった。少し別の話も。木曜日に店員Oさんと顔を合わせると、休みのあいだにどんな本を買ったり読んだりしていたかという報告合戦になる。今日は火曜日に新宿のBOOK UNIONで買った臼田捷治編著『書影の森――筑摩書房の装丁1940-2014』(みずのわ出版)を見せびらかす。しっかり羨ましがってくれて、満足。持つべきは同僚である。Oさんは服部昇大『日ポン語ラップの美ー子ちゃん』(このマンガがすごい!comics)を読んでいると見せてくれた。たしかに画が可愛くて、その上めちゃくちゃ面白そう。早速e-honで注文する。ついでに「鱧の皮」の話もすると、これにも興味を持ってくれてうれしい。


とりあえず今日はここまで。今月から午前10時に開店するというのを試していて、早く起きることで気持ちにも影響があるということなのか、最近ほんとうに仕事がたのしいです。秋は読書の季節ということもあります。気が向いたとき、足が向いたとき、ぜひ水中書店にお立ち寄りください。面白そうな本、すてきそうな本、たくさん揃えてお待ちしています。それでは、また。

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